新文化(出版業界紙) 連載コラム
本のソムリエ・ロックスター団長がゆく!
出版人御用達の癒しの“港”
ダイニング【寄港地】
'06/10/12

  ロンドンでの特命を終え、バカンスも兼ねて英国情緒を堪能しようと、僕はパブで一人グラスを傾けていた。本場のフィッシュ&チップスは、やはり格別だ。気分はすっかりシャーロック・ホームズ。と自己陶酔に浸りかけたその時、場違いな携帯電話の着信音がホールに鳴り響いた。こ、このメロディーは…。日本の“ボス”からの電話だ!「団長、日本にすぐ帰ってきて“港”に行ってくれ!」「え〜、まだロンドンに来たばっかりですよ〜」「いいから、すぐ港に向かってくれ」「あの〜、どこの港ですか?」「迷わず行けよ、行けばわかる!ブチッ」「ボ・ボス!ボス〜!」        
  ・・・というわけで、ごきげんよう、団長です。ボスからの特命を受け、緊急帰国して次なる地・謎の“港”へやってまいりました〜! 港は、美味しいラーメン店が多いことで有名な東京の荻窪にありました。その名も「寄港地」。出版社、取次ぎ、書店員などの心のオアシスとして、知る人ぞ知る名物飲食店です。店主の江口正明さんは、角川書店、角川春樹事務所で20年以上のキャリアを積んだバリバリの出版人。50歳を迎えた4年前、「疲れたサラリーマンが日常を忘れてホっとできる空間をつくりたい」と全く畑違いの飲食の世界に身を投じました。そんな寄港地で疲れを癒して元気になって帰ろうと、出版界の方はもちろん、ご近所の皆さんや有名プロスポーツ選手など、多くの方たちが立ち寄ります。人気漫画家の小山ゆうさん、武論尊さんらも常連です。
  さて、ではさっそく店内に参りましょう! その名のごとく、海を想起させる装飾でいっぱいです。ハワイ関係、中でも加山雄三さんのものが目を惹きます。加山さんの大ファンという江口さんが、深夜になると、若大将譲りの熱い弾き語りを披露することもあるそうです(笑)
  メニューも個性的です。「若鶏元氣揚げ」「あずみの雑炊」「ケンシロウ鍋」など、漫画の登場人物の名のついたメニューは、どれも大人気。「アボガド明太子」「牛タン・ガーリック焼き」など、興味をそそるメニューがズラリ並びます。どれから食べていいのかわからないので、片っ端からいただくことにしました〜(笑) ズバリ、お世辞抜きで全部美味しいです! 全メニュー制覇したくなってきました(笑) ちなみに、僕が一番気に入ったメニューは…ジャジャーン! 「ワイキキライス」です! ホノルル在住30年の江口さんの友人・リチャード鈴木氏直伝というこのメニュー、一言で言えば、海辺の“ぶっかけご飯”。チキン、彩り豊かな新鮮野菜に、カットパイン、マンゴーなどが入った珍味です。味覚的に何と説明するのが適切か悩むところですが、今までに味わったことのないタイプです。一度食べると病みつきになります(笑) 
  お酒の品揃えも特筆ものです。特にお客さんを惹きつけて止まないのが、焼酎と梅酒です。入手半年待ちはザラという「亀雫」「晴耕雨読」などのマニア泣かせな焼酎が飲めるのは嬉しい限り。そして15種に及ぶ梅酒は逸品の宝庫! メニューを眺めてるだけでも、思わずニヤけてきてしまいます(笑) 梅酒ファンは今すぐ大集合! プハァー、たまらんです(笑)
  そんな感じで食事とお酒を楽しんでいたら、あっという間に閉店時間が近づいてきました。あまりに居心地がよいので時のたつのを忘れてしまいます。実際、閉店時間を過ぎてもお客さんが帰らないことも珍しくないそうです。「海辺でネクタイをとって、足を投げ出してボーっとして時間がたつのを忘れるような…、自分の部屋同然の心地よい場を提供したい」という江口さんの想いでいっぱいの空間を肌で実感。すっかり元気になりました!
  帰宅が朝5時、家を出るのが11時という満足に寝る間もないハードな毎日を過ごしている江口さんは「この店にはいろんな人のドラマがあります。自分の想いだけでなく、お客さんが作ってくれている特別な空気があります。どんなことがあっても守りたい。体力の続く限り、90歳までがんばりたい」と意欲を見せています。また業界人に向けて、「出版は何かとストレスも多い仕事。いつでも歓迎しますので、ぜひ息抜きにいらしてください。自分でお役に立てることがあれば力になりたい」と温かいエールを送ってくださいました。疲れた自分に元気をつける寄港の場として、素晴らしき出会いや交流の場として、ぜひフラリと立ち寄ってみてください。福が待っています! では、また次回。


トップに戻る