KiTTO 連載コラム
 団長対談 お仕事愛好会へようこそ。
      ゲスト:
    山本美香さん (ジャーナリスト)
'05/11

ジャーナリスト
山本美香
大学卒業後、CS衛星放送局に入社。ビデオジャーナリストの
先駆者のひとりとなる。96年から独立系通信社ジャパンプレスに
所属し国際的な紛争地を取材している。03年のイラク戦争では、空爆下の
バクダットから連日生中継、新聞雑誌などでも現地の様子を伝え続けた。
その後日本テレビの「きょうの出来事」でフィールドキャスターとして
活動。戦争報道でボーン・上田記念国際記者賞特別賞を受賞。
著書に「中継されなかったバクダット」(小学館)など



団長
山本さんは、アフガニスタンやイラクに
たびたび取材に行かれているんですよね。
戦場というと、頭上をいつも弾が飛び交って
いるようなイメージがあります。
実際のところは、どうなんですか?

山本: 
実は案外そうでもないんです。
「本当にここは戦場かしら」と思うくらい、
静かに時間が流れていることが多いんですよ。

団長: 
え、そうなんですか?

山本
と言うのも、現地の人にとっては、
「戦争=日常」になってきてしまっているんです。
爆弾が怖いのは事実だけれど、「今日の薪は
足りているか」とか「水は十分汲んであるか」と
いうことも大事なんですよね。

団長: 
ああ、なるほど。

山本: 
私たち、取材のときは現地の一般家庭に
ステイさせていただくんですが、村の人たちは、
昼間、普通に洗濯をしているわけです。

団長: 
一見のどかな風景ですね。

山本
ええ。でも夜中に攻撃があって、
朝になったら村の人が亡くなっていることもある。
それが、現実に起きている戦争なんですね。

団長: 
ハリウッド映画とは違う。

山本: 
そのとおりです。戦争映画って、
カッコいい印象を与えるじゃないですか。
最新鋭の武器が次から次に出てきて。
でも本当の戦争はそれだけじゃない。
ある日、日常から大切な人がいなくなっちゃう
ことなんですね。生きたいと願う人が、
何かに巻き込まれて他人に殺されてしまうのは、
本当にむごいことですから。
それを伝えていきたいと思ってます。

団長: 
う−ん。重い事実ですね。
でも日本にいると、死ぬということが
なかなか身近に感じられなくて……。

山本: 
そうですよね。私も日本に戻ると同じです。
だから、少し気に留めてくれる程度でもいいなあ、と。
「他人事だけど、でも大変だなぁ。かわいそうだなぁ」って。
行動を起こさなくてもいい。
自分と同じ時代にこういう境遇の人が
いるということを、ちょっとでも考えてもらえたら
と思って、報道しています。

団長: 
山本さんご自身は、戦場で
命の危険を感じたことはあるんですか。

山本: 
ありますねぇ。たとえばイラク戦争のときは、
バグダッドにいたので。
でもだんだん慣れてきちゃうんですよ。
そうでないと生きていけないから。
ただ慣れても、生命の危機はいつも敏感に
察知しています。取材した素材を、無事に
持ち帰ることも仕事ですから。

団長: 
うーむ。よはどの決意がないとなれない
仕事のような気がしますが、
昔から目指していたんですか。

山本: 
いえ、全然 (笑)。大学生の頃は
学校の先生になろうと思っていたんですよ。
でもマスコミにも興味があって、
その世界に入ることができたので。
最初は衛星放送の会社で、
ディレクターをやっていました。
フリーになったのは96年です。

団長: 
戦場に行くきっかけは?

山本: 
戦場を取材しているベテランジャーナリストから
「イスラムの女性の取材をしないか」と
打診されたんです。当時の私は、今後どういう
ジャンルでやっていけばいいのか
方向性が見出せずに悩んでいました。
それで、これが新境地になりそうな気がして
「行きます!」と手を挙げたんです。

団長: 
でも危険な取材ですよね?

山本: 
以前は戦場に行くなんて、自分にはできないと
考えていました。ですが、せっかく話があったんだから、
今やらなきやいつやるの?と思って。
ダメだったらまたそこで考えればいいですしね。

団長: 
実際に行ってみて、どうでしたか。

山本: 
これはマズイ、と。かなり危ない状況でした。
でも、もう戻れませんから。きちんと取材して、
その成果を必ず持って帰ろう。そう気合を入れたんです。

団長: 
腹をくくったわけですね。

山本: 
はい。でもそんなに悲壮な心境だったわけでもなくて。
私、根が楽観的なんです (笑)。

団長: 
それは戦場ジャーナリストにとって
必要な資質なんでしょうね。

山本: 
そうですね。好奇心旺盛なこと、適応力があること、
イヤな出来事を引きずらないこと。
それが大事ですね。
企画書どおりに取材が進むなんて、まずありませんから。
国境やビザの問題で、目指す場所に
たどり着けないこともあります。
でもうまく気分転換しながら、その場で
常に軌道修正していくことで、活路を見出すわけです。

団長: 
今、どのくらいの頻度で取材に行かれているんでしょうか。

山本: 
だいたい1ヶ月海外にいて、1ヶ月日本にいて……
というパターンが多いですね。1年の半分くらいを
海外で過ごしています。

団長: 
日本にいる間はどんなふうに過ごしているのか、
興味があります (笑)。

山本: 
特に趣味もないので、ぼーっとしてます (笑)。
スポーツクラブで体力を雑持しつつ、
あとは原稿をまとめたり写真を整理したり。

団長: 
リラックスすることで、戦場にいるときの緊張感と、
うまくバランスをとっているんですね。
格闘家も、そういうスイッチの切り替えがうまいらしいですよ。

山本: 
私、格闘家系かしら (笑)。

団長: 
いや、そういう意味じゃないんですが(笑)。
では最後に、今後の仕事の展望を教えてください。

山本: 
これからも戦場での定点観測を続けていくつもりです。
速報だけでなく、何年も追い続けて検証することが
大事だと考えているので。
そこで見たものを、また皆さんにお伝えしていければと思います。


KiTTO(ゴマブックス刊) 2005年11月号対談より

  


山本さんは、2012年8月20日、シリア北部アレッポの戦地にて殉職されました。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。


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